ご挨拶

去る2013年2月9日(土)14:00より、「市民が撮った東日本大震災 ―『3.11 キヲクのキロク』写真展―」の関連イベントとして、トークセッション「3.11を撮るということ」が行われました。
仙台から佐藤正実さん、衛藤雅之さん、齋藤高晴さん、石巻から中山奈保子さんをお迎えし、東日本大震災以降に、ご自身で撮られた写真の解説をしていただきました。
そして、東日本大震災を写真によって記録することについて、また、写真を通して後世に伝えることについて、かつての被災地、神戸の人々と議論が行われました。
改めて、ゲストの皆様、そして、ご参加いただいた方々に感謝申し上げます。

トークセッション

トークセッションでは、4名のゲストの方々に、「3.11を撮る」という観点で選んでいただいた写真、各10枚をスライドに一枚ずつ映し、解説をしていただきました。また、「写真を撮影しようと思った理由は」、「あなたにとって「3.11を撮る」とは」、という二つの質問にも事前に回答をいただき、その内容について、より深い解説をしていただきました。<
左から中山、高森(司会)、佐藤、衛藤、齋藤(敬称略)

 佐藤正実さんは、写真集『3.11キヲクのキロク』の編集者として、市民から寄せられた多くの写真を目にする立場に身を置きながら、ご自身も写真を撮影しています。それらの写真のなかでも、現在取り組まれている「定点観測写真」を中心に、解説をしていただきました。「定点観測写真」は、『3.11キヲクのキロク』で集められた、震災直後の写真を中心に、「今、この場所はどうなっているのか」ということを記録するために、約一年間かけて取り組まれたプロジェクトです。佐藤さんは、被災直後と、一年以上経過した写真を紹介したうえで、「被災した現在の場所は、何もない。被災地をめぐるツアーなどもあり、それは大変良いものだと思うが、現在の様子だけを見ただけでは、とても被災の程度はわからないのではないか」と述べていました。

 会場全体図衛藤雅之さんは、撮影を続けるなかで、タンポポや水仙、桜といった、自然の芽吹きに目を向けられていった状況を、被災地に咲くタンポポや、水田に沈む桜の倒木の写真の解説を通じて、述べられました。「かつて家だった場所、その花壇に、主はいなくなったが、花が咲いている」。その状況に衝撃を受けたことが、シャッターを押した理由だと述べられました。また、仙台市街で被災直後に見られた、様々な地域からの支援の形を、警視庁のパトカーや、大阪の心斎橋商店街から提供されたイルミネーションなどの写真をもとに、紹介していただきました。

 齋藤高晴さんは、被災直後にサイレンが鳴り響く中、カットを続ける美容師の写真や、電話ボックスに並ぶ人々、交通手段が無い状況で、自転車に乗る人々など、被災後に変化した、人びとの行動を写真に多く収められています。一見するだけでは、被災地の写真とは思えないものもあり、齋藤さんの解説が加わることで、当時の様子がありありと伝わってきました。また、最後にご用意していただいた一枚は、津波の被害が映し出された、一目で被災地だと分かる写真でした。齋藤さんは、「同じカメラ、同じ自分の目で、どちらの光景も見ている、ということが、不思議に感じる。自分でも消化しきれない思いがある」とおっしゃっていました。

 会場全体図2最後に解説していただいた中山奈保子さんは、石巻市に在住しています。津波により、自宅の一階が浸水し、二階へ逃げたことで難を逃れたその時の様子を写した写真を紹介していただきながら、当時の緊迫した状況を詳細に述べていただきました。そして、被災後の写真として、中山さんのお子さんの成長記録であり、同時に、街の変化を映し出している写真をご紹介いただきました。また、中山さんの自宅の二階から撮影した定点観測写真もご紹介いただきました。「街の風景が一向にかわらない。でも、子どもたちはそんななかでも、すくすくと成長していく。その様子をこれからも撮り続けていきたい」とおっしゃっていました。

人と防災未来センター資料室より、トークセッションを終えて

トークセッションを進めていくなかで、佐藤さんはじめ、ゲストのみなさんが「神戸の人々の話を聞きたい」とおっしゃったため、質疑応答の時間を長く取ることに変更いたしました。人と防災未来センターには、ご自身の震災体験を語ってきた方々、展示の解説を続けてこられた方がいらっしゃいます。また、センターを離れた所にも、阪神・淡路大震災について深く考察し、また、東日本大震災の被災地に思いを寄せていらっしゃる方々がおられます。今回、このトークセッションを通じて、「体験を記録し、伝える」ということを互いに考え、行動してきた者同士が出会い、それぞれの智恵を共有できたことが、人と防災未来センターにとっても、東北のゲストの方々にとっても、有益であったと思います。今後もこのような、思いを共有する場を作っていければと思います。


主催:人と防災未来センター
共催:NPO法人20世紀アーカイブ仙台